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においの外来 NIOI GAIRAI

においとは

においは生活の一部

においを感じなくなると日常生活でさまざまな問題が起きます。 ガス漏れ、食品の腐敗臭の検知などは、生命にかかわる問題です。 香水や食事の風味などは、日常生活を豊かにしてくれる大切な要素です。 そもそも、私たちがにおいを感じる時、体の中で一体どのようなことが起こっているのでしょうか。

においをにおう仕組み

鼻からにおいの素(におい分子)が入ると、鼻の空洞(鼻腔といいます)の最上部の嗅上皮の表面に存在する粘膜でキャッチされます。嗅上皮には嗅細胞がたくさん並んでいます。嗅細胞の表面にはにおい分子を捉えるためにキャッチャーミットのようなセンサーを多数備えており、これを嗅覚受容体といいます。 におい分子を嗅覚受容体がキャッチ(活性化)した嗅細胞はビックリ(脱分極)して、脳への入り口である嗅球に信号を送ります。嗅球の糸球体は荷物集配所みたいな機能と信号を整理する機能(アナログTVに例えると、ノイズを減らしたり、信号の強弱や同期調整、画像のコントラスト調整等)を持ち、そこから更に上位中枢にあたる、脳(大脳辺縁系)へ信号を送り、最終的に脳で地図化されどんなにおいを感じたかを認識するのです。

鍵と鍵穴の関係

嗅粘膜は、においをキャッチするためにセンサーに相当する、「嗅覚受容体」を嗅細胞の表面に多数備えています。1つの嗅細胞は1種類のにおいしか嗅ぎ分けられることができません。また1つの糸球体も1種類の嗅細胞(同じ嗅覚受容体群)からの信号しか受けません。 1個のにおい分子に対して嗅覚受容体が、ちょうど鍵と鍵穴が合わさり検知した!となります。におい分子は重すぎると、嗅粘膜まで届かないため、大きくても分子量300以下です。(水素分子は2,窒素分子は28、酸素分子は32、二酸化炭素分子は44、ベンゼンは78、ナフタレンは128、コールタールは240) ここで、においの分子を鍵、嗅細胞の嗅覚受容体を鍵穴に例えてみましょう。 におい分子は分子全体の形状で一つの鍵の形状として認識されるわけではなく、アルデヒド、 エステル、ケトン、アルコール、アルケン、カルボン酸、アミン、イミン、チオール、 ニトリル、サルファイド、エーテル等の各末端部分の組み合わせが、鍵穴にあるシリンダーを押す鍵の突起部分として機能します。 ですので、世の中に存在する物質はすべて化学記号に変換することができますが、すべての物質がにおい分子となるわけではなく、上記のようにある特徴をもった化学構造を持つ物だけが、におい分子の資格を持っているのです。

人間のにおう能力

人間には約400種類の嗅細胞が備わっています。もう少し正確に言いますと、鼻腔上方に500万個ある嗅細胞が持つ、有効な嗅覚受容体の遺伝子配列のパターンが約400種類あります。1つの嗅細胞には1種類の嗅覚受容体のみが多数存在します。遺伝子パターンには個人差、民族による違いも多少あります。また実際には使われない嗅覚受容体の遺伝子配列もあります。(それは生物学的な進化論と深く関係して大変興味深い話なのですが、当サイトでは省略します)

嗅覚が鋭いとされるイヌは約800種類、マウスにいたっては1000種類を越えるのです。人間は他の動物に比べ、ずいぶんと種類が少なく感じると思いますが、何も400種類のにおいしか判別できないわけではないのです。

実は、反応する嗅覚受容体の組み合わせを変えることで、違うにおいとして感じることができるのです。

一体どういうことなのでしょうか?

そのしくみをマスターキーと鍵の束という考え方で説明しましょう。

便宜上、仮に1400まで鍵穴つまり受容体に番号をつけます。

すると、バラの香り分子は鍵の束として考えられますね。

例えばバラが1番と150番と333番の鍵穴を同時にあけたならば、[1-150-333]というデジタル的信号が脳に伝わり、それが地図化され脳がバラのにおいだ!と認識するという仕組みです。

仮に、信号が1番と150番と332番だとした場合、脳がそれをバラの香りと認識しない可能性もあるわけなのです。

 

つまり、受容体の組み合わせがにおいの判別に影響してくるのです。

例えば6個の受容体の組み合わせで数学的に計算すると、6C1+6C2+6C3+6C4+6C5+6C6 = 63通りの組み合わせができ、最大63種類のにおいをかぎ分けることが理論上可能です。これを400で計算すると100桁以上の天文学的数字になり、人間には事実上無限の可能性が備わっているのかというとそう上手い話でもありません。

実は、遺伝子配列が異なっていても鍵穴の形状としては似ているものがあって、とある一つのにおい分子がマスターキーとして機能し同時に4つの鍵穴を開けてしまうということが起こっています。ですから、最近の研究でも人間のにおいの判別能力は多くても1兆種類程度に留まると言われています。(人間の嗅覚は実はイヌ並!?_最新の知見より

だとすると、マスターキーで開いてしまう似たもの同士の受容体を1種類と考えると、およそ40種類の組み合わせでにおいを分別しているということに計算上なります。

嗅覚と視覚と聴覚

進化論でいえば、嗅覚は一番古い脳神経で、続いて視覚、続いて聴覚が発達しました。実は嗅覚も視覚も聴覚も、知覚信号を脳に送って地図化して解析する、という仕組みは一緒です。たとえば聴覚の場合は周波数信号が嗅覚でいうところの受容体信号にあたり、脳で周波数別に地図化されます。
人工知能や人工臓器の開発において、嗅覚信号を視覚化したり、聴覚信号をにおい化できるようになるととても面白いですね。