若い頃の嗅覚と認知症との関係 - においの外来_嗅覚外来においの外来_嗅覚外来

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若い頃の嗅覚と認知症との関係

2019/05/24

高齢者や認知障害が認められる方において、嗅覚障害が関係していることが報告されています。ところが、認知機能を発症する年代ではない若い成人が嗅覚障害を発症した場合、認知機能にどう影響するかの研究はまだなされていませんでした。

20195月、ドイツで認知障害のリスクが特に高いわけではない、幅広い年齢層を対象とした、過去最大級の母集団ベースサンプルで相関を明らかにしたコホート研究が報告されたのでご紹介したいと思います。

「Olfactory function is associated with cognitive performance: results from the population-based LIFE-Adult-Study.」
PMID:31077241

 この研究では、ライプチヒ生活習慣病研究センターがドイツのライプチヒで行った10,000人の参加者を対象とした集団ベースの前向きコホート研究であるLIFE-Adult-Studyのデータを使用しました(初回募集:20118月から201411月まで)。LIFE-Adult-Studyの目的は、有病率、早期発症マーカー、遺伝的素因、および主要な生活習慣病の要因を調査することです。調査内容には、代謝性および血管性疾患、心機能、認知機能障害、脳機能、鬱病、睡眠障害および警戒障害、網膜および視神経の変性、ならびにアレルギーが含まれます。参加者は住民の登録リストから無作為に選択されました。

10,000人のうち、参加した合計7381人の参加者が検査を受けることができました。これらのうち、114は嗅覚検査が完了しなかったので除外されました。残りの7267人のうち73人は3つの検査(言語流暢性、Trail Making Test A、およびTrail Making Test B / A)をすべて終えていなかったため除外されました。さらに395人の参加者が学習障害やうつ病に関する情報がなかったため除外されました。残りの6799のうち、16はパーキンソン病の診断により除外され、678351.3%女性)が最終的に分析を行っています。さらに、その中の2227人(46.9%女性)はより深い認知機能を判断するテストも受けています。

認知機能を判断するテストには、ことばの流暢さ(VF)、単語リスト学習と記憶力(WLLWLR)を、認知機能評価のためのTrail Making Tests (TMT) A および B、そして嗅覚診断として、「Sniffin ‘Stick Screening 12」(Burghart Messtechnik GmbHWedelGermany)が用いられました。これは「Sniffin ‘Stick」テストの簡易版で、嗅覚機能のために一般的に使用されたセットです。ペン型容器に納められたフェルト芯に、におい溶液もしくは無臭の溶媒が染み込ませてあり、キャップを外して臭いを嗅ぎます。参加者は12種類の一般的な日常の匂いを嗅ぎ、その匂いが何であるかを4つの選択肢から1つを選択します。そして合計スコアを0から12ポイントの範囲で評価します。ドイツ製ということもあり、ドイツ人に馴染みの深い匂いが多く入っているのが特徴です。

別の研究では日本人が「Sniffin ‘Stick Screening 12」を使うと正確な嗅覚診断ができないという報告もありますので、本院では従来より日本人になじみの深いにおいを取り入れた「オープンエッセンス」を嗅覚検査に使っています。このキットのしくみは「Sniffin ‘Stick Screening 12」とほぼ同じ内容になっています。

 合計6783人の参加者のうち、以下の割合の患者の認知機能が正常ではありませんでした:VF 75911.2%)、WLL 24210.9%)、WLR1325.9%)、TMT- 415(6.1%)、およびTMT A比677(10.0%)

これらの患者が行なった嗅覚検査との相関を調べると、VFのスコア値は0.42ポイント高く(p <0.001)、WLLでは0.32ポイント高く(p = 0.001)、WLRでは0.31ポイント高く(p = 0.002)、TMT-Aでは0.25ポイント低く。 (p <0.001)、そしてTMT A比については、正しく識別された臭いの数当たり0.01ポイント(p <0.001)だけ低いことがわかりました。

 この研究は高齢者に限定せず、若い人も含んだ条件下で臭いと認知機能との関係を調べています。今までの同様の研究では、対称の平均年齢が7090代のものが多くあった中、18歳からの低年齢層も含み、平均年齢を低く設定している点で従来のものと差別化することができます。そのような条件でも、嗅覚は認知機能と密接に関連していることがわかりました。

つまり、認知障害のふるい分けの初めに嗅覚テストが非常に有効であることが示唆されたのです。

 

本院ではいつでも嗅覚検査を受けつけております、自身の認知機能について不安な方は是非一度検査をうけにきてはいかがでしょうか?