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若い頃の嗅覚と認知症との関係

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高齢者や認知障害が認められる方において、嗅覚障害が関係していることが報告されています。ところが、認知機能を発症する年代ではない若い成人が嗅覚障害を発症した場合、認知機能にどう影響するかの研究はまだなされていませんでした。

20195月、ドイツで認知障害のリスクが特に高いわけではない、幅広い年齢層を対象とした、過去最大級の母集団ベースサンプルで相関を明らかにしたコホート研究が報告されたのでご紹介したいと思います。

「Olfactory function is associated with cognitive performance: results from the population-based LIFE-Adult-Study.」
PMID:31077241

 この研究では、ライプチヒ生活習慣病研究センターがドイツのライプチヒで行った10,000人の参加者を対象とした集団ベースの前向きコホート研究であるLIFE-Adult-Studyのデータを使用しました(初回募集:20118月から201411月まで)。LIFE-Adult-Studyの目的は、有病率、早期発症マーカー、遺伝的素因、および主要な生活習慣病の要因を調査することです。調査内容には、代謝性および血管性疾患、心機能、認知機能障害、脳機能、鬱病、睡眠障害および警戒障害、網膜および視神経の変性、ならびにアレルギーが含まれます。参加者は住民の登録リストから無作為に選択されました。

10,000人のうち、参加した合計7381人の参加者が検査を受けることができました。これらのうち、114は嗅覚検査が完了しなかったので除外されました。残りの7267人のうち73人は3つの検査(言語流暢性、Trail Making Test A、およびTrail Making Test B / A)をすべて終えていなかったため除外されました。さらに395人の参加者が学習障害やうつ病に関する情報がなかったため除外されました。残りの6799のうち、16はパーキンソン病の診断により除外され、678351.3%女性)が最終的に分析を行っています。さらに、その中の2227人(46.9%女性)はより深い認知機能を判断するテストも受けています。

認知機能を判断するテストには、ことばの流暢さ(VF)、単語リスト学習と記憶力(WLLWLR)を、認知機能評価のためのTrail Making Tests (TMT) A および B、そして嗅覚診断として、「Sniffin ‘Stick Screening 12」(Burghart Messtechnik GmbHWedelGermany)が用いられました。これは「Sniffin ‘Stick」テストの簡易版で、嗅覚機能のために一般的に使用されたセットです。ペン型容器に納められたフェルト芯に、におい溶液もしくは無臭の溶媒が染み込ませてあり、キャップを外して臭いを嗅ぎます。参加者は12種類の一般的な日常の匂いを嗅ぎ、その匂いが何であるかを4つの選択肢から1つを選択します。そして合計スコアを0から12ポイントの範囲で評価します。ドイツ製ということもあり、ドイツ人に馴染みの深い匂いが多く入っているのが特徴です。

別の研究では日本人が「Sniffin ‘Stick Screening 12」を使うと正確な嗅覚診断ができないという報告もありますので、本院では従来より日本人になじみの深いにおいを取り入れた「オープンエッセンス」を嗅覚検査に使っています。このキットのしくみは「Sniffin ‘Stick Screening 12」とほぼ同じ内容になっています。

 合計6783人の参加者のうち、以下の割合の患者の認知機能が正常ではありませんでした:VF 75911.2%)、WLL 24210.9%)、WLR1325.9%)、TMT- 415(6.1%)、およびTMT A比677(10.0%)

これらの患者が行なった嗅覚検査との相関を調べると、VFのスコア値は0.42ポイント高く(p <0.001)、WLLでは0.32ポイント高く(p = 0.001)、WLRでは0.31ポイント高く(p = 0.002)、TMT-Aでは0.25ポイント低く。 (p <0.001)、そしてTMT A比については、正しく識別された臭いの数当たり0.01ポイント(p <0.001)だけ低いことがわかりました。

 この研究は高齢者に限定せず、若い人も含んだ条件下で臭いと認知機能との関係を調べています。今までの同様の研究では、対称の平均年齢が7090代のものが多くあった中、18歳からの低年齢層も含み、平均年齢を低く設定している点で従来のものと差別化することができます。そのような条件でも、嗅覚は認知機能と密接に関連していることがわかりました。

つまり、認知障害のふるい分けの初めに嗅覚テストが非常に有効であることが示唆されたのです。

 

本院ではいつでも嗅覚検査を受けつけております、自身の認知機能について不安な方は是非一度検査をうけにきてはいかがでしょうか?

においは好き!?嫌い!?の二択_最新の知見より

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匂いを感じた時、ヒトは「快・不快」さらには「好き・嫌い」という情動的な反応(気持ち)を示します。匂いに対する情動的な反応は、遺伝的な要因によって先天的に決定されるケースもあれば、経験や学習によって後天的に調節・決定されるケースもあることが知られています。英国Wiley Online Libraryの科学誌Flavour and Fragrance Journalにおいて、九州大学での成果が発表されました。

 

この調査によると、従来行われていなかった先天的・後天的な情動反応が一致しない匂いに着目し、「良い香りだけど嫌い」もしくは「悪い臭いだけど好き」の知覚特性を調べました。
匂いに対する情動反応を評価する軸として、「快・不快」を直感的・本能的な情動反応、「好き・嫌い」を経験的・獲得的な情動反応を評価する軸として設定し、36種類の匂い物質に対して嗅覚認知実験を行いました。実験の結果、「快・不快」と「好き・嫌い」が一致した匂いでは、匂いの強度が強まるほど匂いの言語表現(フルーツの香り、アーモンド臭など)が一意に定まる傾向が見られました。その一方で、「快・不快」と「好き・嫌い」の評価が一致しない匂いでは、強度に関わらず匂いの言語表現が定まらない傾向が見られました。

つまり、「良い匂いでかつ好きな香り」、もしくは「臭くて嫌な臭い」という情報がないと、何の匂いかわからなくなってしまうのです。

匂いの感覚情報は、感情に関する偏桃体や記憶に関する海馬でも処理されていることがわかっていますが、その詳細な仕組みはまだわかっていないのが現状ですが、その先駆けとして非常に有益な成果ですね。

 

「The effect of different emotional states on olfactory perception: A preliminary study」
参照:九州大学岡本剛研究室

 

ということは、異性を口説くには相手の好みの匂いを見つけるとよいのかもしれませんね。

人間の嗅覚は実はイヌ並!?_最新の知見より

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米科学誌サイエンスに掲載された論文によると、米ラトガース大学の神経科学者ジョン・マクガン氏は、人間の嗅覚が劣っているという、同氏が言うところの「誤解」を導いた過去の研究や歴史的文献を見直した。人間は約1万種類のにおいを嗅ぎ分けられると長年考えられてきた。だが、その数は1万どころか実際には1兆種類近いとマクガン氏は言う。
同氏の論文によると、人間の嗅覚は貧弱だとする「俗説」の出所は、19世紀フランスの脳外科医で人類学者のポール・ブローカだという。ブローカは1879年に発表された論文の中で、人間の脳の中で嗅覚野の容積が他の部位に比べて小さいことに言及していた。このことは人間が自由意志を持ち、イヌや他の哺乳類のように生き残るために嗅覚に依存する必要がないことを意味するとブローカは主張した。
マクガン氏によると、嗅覚情報を処理する脳組織の嗅球(きゅうきゅう)が脳全体の容積に占める比率をみると、人間のわずか0.01%に対し、ネズミでは2%に及ぶ。だが人間の嗅球は実サイズがかなり大きく、成人で約60ミリに達することもあり、他の哺乳類の嗅球と比べてほぼ同数の神経細胞を持っている。
嗅覚に関する人間とイヌとネズミの間の違いは、特定のニオイに対する感受性の差に帰する可能性がある。「人間にはニオイの痕跡をたどる能力があり、人間の行動状態と感情状態はともに嗅覚に影響される」とマクガン氏は記している。
「Poor human olfaction is a 19th-century myth.」
PMID:28495701

上等のワインの香りを嗅ぐ事に関しては人間の法が上手いかもしれませんが、電柱の周りについた様々な尿の臭いを分析することにかけては、やはりイヌに軍配があがることでしょう。

においと血糖値_最新知見より

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本日は3月14日。各職場にもきっとおいしそうなケーキやクッキーが並んでいることでしょう。

さて嗅覚受容体の話は「においとは」で簡単ですが紹介させていただきました。

最新の研究で、このにおいセンサー(嗅覚受容体)が実は膵臓に存在し、私達の糖代謝にも関係しているのではないかという、ある意味衝撃的な内容が今年1月に発表されました。

 

「Olfactory receptors are expressed in pancreatic β-cells and promote glucose-stimulated insulin secretion.」

訳:嗅覚受容体は膵臓β細胞に発現しグルコース応答性インスリン分泌を促進する

PMID:29367680

 

この研究は東北大学大学院と大阪大学大学院の共同研究でなされたもので、鼻の嗅覚神経の「におい」を感知するセンサーである「嗅覚受容体」が、ヒトやマウスの膵臓のインスリン分泌細胞(β細胞)にも存在していることを発見したとの報告がありました。

におい物質の一つであるオクタン酸をマウスに経口で投与すると、膵臓β細胞にある嗅覚受容体の一つ(Olfr15)によって感知されると、血糖値が高いときだけインスリン分泌が促進し、高血糖が改善するそうです。

さらに、このマウスの嗅覚受容体に相当するヒトの嗅覚受容体が膵臓β細胞にも同様に発現していることが確認されました。

 

将来、薬を飲むのではなく、とある薬品のにおいを嗅ぐいだだけで、血糖値が下がるような、夢の薬品が開発されるかもしれませんね。

においの人種差(嗅覚の人種差)_最新知見より

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耳鼻咽喉科外来を受診する嗅覚障害患者の約半数が副鼻腔炎が原因だと言われています。次いで風邪を引いた後ににおいを感じなくなる人が約2割、頭部の外傷による人が1割、原因不明も2割ほどいます。

 

このように、嗅覚障害の原因は様々であることが解りますが、201712月に米国のスタンフォード大学と豪州のシドニー大学の共同研究で、嗅覚障害に陥りやすい患者の背景についての報告がなされました。(PMID:29204574

報告によると、まず嗅覚障害患者は加齢と伴に有意に増加し、尿検査ではマグネシウム、 2-チオキソ-4-チアゾリジンカルボン酸, 2-アミノ-4,5-ジヒドロチアゾール-4-カルボン酸が低値を示すことが言われています。また、人種による違いでは、アジア人が比較的嗅覚障害になりづらい人種であることも統計的に解明されました。性別の違いでは、男性よりも女性の方が臭いを同定しやすい、つまり臭いに対して敏感であることが示唆されています。さらには、喫煙者は非喫煙者と比較して嗅覚障害になる可能性が高いとも報告されています。

一方で、嗅覚障害のひとつである無嗅覚症と嗅覚鈍麻患者は血清中の鉛、尿中の2,4ジクロロフェノール濃度が上昇していることも明らかとなりました。

 

もちろん、根本的な原因をすべて解明しているわけではありませんし、加齢、人種や性別の面では自分自身で予防したりすることが出来ない部分も多くあります。しかし、たばこをやめる、マグネシウムを多く含む食品を食べるように心がける、カルボン酸に関してはクエン酸回路における生成物であるため三大栄養素をバランスよく摂取するなど、自ら嗅覚障害を予防できる部分も多くあるのではないでしょうか。

 

嗅覚障害が発症するリスクを少しでも減らすために、まずは自分の環境、生活習慣を見直してみるといいのかもしれませんね。

においと睡眠_最新知見より

においワールドコラム

 

においと睡眠

鼻の副鼻腔という空洞部分に炎症が起こる「副鼻腔炎」が慢性化した病気のことを「慢性副鼻腔炎(蓄膿症)」といいます。

年齢問わず発症し、骨格や、アレルギー性副鼻腔炎が長引いてしまうこと、炎症により粘膜が厚くなることなどが発症に関連しているといわれます。

先日のコラムでは、この「副鼻腔炎(蓄膿症)」がたばこを吸っていると悪化しやすいという報告をご紹介しました。

 

今年6月に報告されたその研究は、難治性の慢性副鼻腔炎の患者さん198人を対象にSNOT-22という22項目のアンケート調査を施行したものです。(PMID: 28600803
そのアンケートの項目は、例えば鼻をかむ程度、イビキの程度、鼻水の程度、夜間覚醒の程度、日中の疲れの程度、味覚嗅覚の程度とかかなり多岐にわたるものです。

そのアンケート調査結果を解析した結果、生産性の低下は心の不調および睡眠障害の2領域のスコア低下と強く相関することが分かりました。

 

当院でも睡眠障害がある場合に副鼻腔炎(蓄膿症)が発症する割合が多いことが経験的に明らかです。

まして副鼻腔炎が悪化すれば、嗅覚が減退するのは間違いありません。
においと睡眠の関係の間には、副鼻腔炎と睡眠障害という重要な疾患が介在していることを忘れてはなりません。

よい睡眠は記憶を定着させたり、心身の疲労回復をもたらします。また、免疫機能を強化するといった役割ももっています。

健やかな睡眠を保つことは、活力ある日常生活につながっているのですね。

においとタバコ_最新知見より

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においとタバコ

嗅覚障害を引き起こす要因のひとつに「副鼻腔炎(蓄膿症)」があげられます。
この副鼻腔炎は比較的メジャーな病気ですが、なんと嗅覚障害をきたす患者の約4-5割を占める疾患であると言われています。

そして喫煙行為、これはもちろん病気ではないですが、両方が組み合わさると一体どのような事が起こってしまうのでしょうか?

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においの性差(嗅覚の性差)_最新知見より

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嗅覚の性差について

嗅覚障害は女性に多い症状と言われています。

一般的に耳鼻咽喉科外来ににこられる嗅覚障害の患者さんは、男女比、3:5という統計があることが根拠でしょうか。

当院では更にもう少し女性が多いような気がしますので、少なくとも「嗅覚障害は女性に多い」というのは事実なのかもしれません。
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